保育士の資格はあるけれど、しばらく現場から離れている。
そんなとき、ふと「もう一度働きたいな」と思っても、すぐには動き出せないものだと思います。ブランクがあること、前と同じようにできるか分からないこと、家庭との両立のこと。考えることがたくさんあって、「今さら戻れないかもしれない」と気持ちが止まってしまう。
私も同じでした。幼稚園教諭として働いたあと、一度保育の現場を離れ、保育とはまったく関係のない一般企業で働いていた時期があります。結婚と出産を経て、いまは保育士として働いています。
この記事では、私が現場を離れてから戻るまでに考えたこと、そして戻ってみて分かったことを書きます。同じように迷っている方の、判断材料のひとつになればうれしいです。
一度、保育の現場を離れました
幼稚園教諭として働いていた頃
大学を卒業して、幼稚園教諭として働き始めました。
一人担任のクラスを任されていたので、他の先生の目を気にすることなく、自分の考えで保育ができました。子どもたちと一緒にクラスをつくっていく。その過程には、他では味わえない純粋な楽しさがありました。
ただ、一人で担任を持つということは、そのぶんの責任も一人で背負うということでもあります。
気づけば、一日12時間働くことが当たり前になっていました。園バスがあったので、バス当番の日はさらに早い時間に出勤します。それでも仕事は終わらず、家に持ち帰って製作物をつくる日々が続きました。子どもたちのために手をかけたい気持ちがあるからこそ、やることはどこまでも出てくるのです。
そうして少しずつ、心と体に疲れが溜まっていきました。
仕事そのものは好きでした。だからこそ、このままの働き方では長く続けられないかもしれない、と考えるようになったのです。
もちろん、転職には迷いもありました。それでも一歩踏み出せたのは、手元に資格があったからです。保育の仕事から離れても、資格がなくなるわけではない。戻りたくなったら、また戻ればいい。そう思えたことが、決断を後押ししてくれました。
そうして一度立ち止まり、保育とは違う世界に出てみることにしたのです。
一般企業で働いて気づいた、保育の仕事の価値
一般事務の仕事は、働き方という点ではとても恵まれていました。
残業は多い月でも20時間ほど。当時は独身だったので、その程度の残業はまったく苦になりませんでした。休みも取りやすく、自分の仕事さえ調整すれば希望どおりに休めます。先輩にお子さんのいる方がいて、「残業はしない」という空気が自然にできていたことも大きかったと思います。
何より違ったのは、気持ちの余裕でした。
保育の仕事は、子どもの命を直接預かります。その緊張感は、現場にいる間ずっと続きます。一般企業での仕事にその種の緊張はなく、精神的にはずいぶん楽でした。
時間の流れ方も違いました。保育の現場では、決まった時間に合わせて常に慌ただしく動いています。一般事務では、自分のペースで仕事を進められます。休憩時間はきちんと取れて、お昼も自分の食べたい量を、自分のペースで食べられる。休憩中にスーパーに寄ることだってできます。自分だけの時間がある、という自由がありました。
ただ、しばらく働くうちに、ひとつ気づいたことがあります。
仕事中に、笑うことがほとんどないのです。
保育の現場では、毎日どこかで必ず笑っていました。子どもの言うことやすることに、思わず声を出して笑ってしまう。そんな瞬間が当たり前にありました。
季節もそうです。保育の仕事をしていると、外遊びで土や草花に触れ、行事を通して季節の移り変わりを肌で感じます。それが日常でした。
オフィスで働くようになって、笑うこと、自然と触れ合うこと、季節を感じること。その全部が生活から抜け落ちていました。当たり前すぎて気づかなかったものが、実はとても豊かなものだったのだと、離れてみて初めて分かりました。
一方で、一般企業で得たものもあります。パソコンのスキルです。
保育の現場にもICTは入ってきていますが、一般企業と比べればまだこれからという部分があります。だからこそ、パソコンが人並みに扱えるだけで重宝される場面が実際にありました。遠回りに思えた経験が、こうして役に立つこともあるのだと思っています。
もう一度、保育の現場に戻ろうと思ったきっかけ
結婚し、子どもが生まれ、生活が大きく変わりました。
もう一度保育の仕事に戻りたいと思った一番のきっかけは、学生時代の友人たちの姿でした。みんな大変そうにしているのに、どこか充実していて、楽しそうなのです。その様子を見るたびに、自分が離れてきたものの大きさを思い出していました。
現実的な事情もありました。
産後に仕事へ復帰するのは、当時はまだ簡単なことではありませんでした。キャリアが一度途切れると、元の場所に戻るのは難しい。実際に一般企業への復帰も考えましたが、採用にはなかなかつながりませんでした。経験が足りなかったのか、年齢なのか、時代のせいなのか、理由はひとつではないと思います。ただ、小さな子どもがいる状態で一般企業でキャリアを積んでいくのは、現実的に難しいと感じました。
そんな中で、保育の仕事は違いました。
ちょうど保育士の待遇が改善されてきている時期でもあり、資格を持っていることが、そのまま次の一歩につながったのです。一般企業ではなかなか採用されなかった私が、保育の世界では必要とされる。資格を持っているというのは、こういうことなのだと実感しました。
とはいえ、不安がなかったわけではありません。
ブランクがあること。家庭と両立できるのか。そして私は幼稚園での経験しかなく、保育園で働いたことは一度もありませんでした。
だから、無理をしないことを最初に決めました。目標は「長く、細く」。フルタイムではなく、パートという立場で戻ることにしたのです。
保育園は初めての場所でしたが、不安よりも「挑戦してみよう」「また一から勉強しよう」という気持ちのほうが強くありました。
ブランクがあっても保育士に戻れる理由
不安な気持ちはあると思いますが、国の資料を見ると、保育士の資格を持つ人を取り巻く状況は決して厳しいものではありません。
保育士は今も、人が足りていません
保育士の有効求人倍率は、求人が最も増える2026年1月に3.88倍でした。仕事を探している人1人に対して、約3.9件の求人があったことになります。全職種の平均(1.27倍)のおよそ3倍です。
直近の2026年7月でも2.80倍で、全職種の平均(1.15倍)を大きく上回っています。
つまり、保育の現場は今も人を求めています。
「子どもの数が減っているから、保育士も必要とされていないのでは」と思うかもしれません。たしかに、保育所などを利用する子どもの数は、2026年4月時点で265万人と、前年より3.2万人減っています。それでも、保育所などを利用している子どもは、就学前の子どもの半数を超えています(2025年4月時点で55.7%)。
さらに2026年度からは、親が働いているかどうかにかかわらず、時間単位などで保育所などを利用できる「こども誰でも通園制度」が、全国の自治体で実施されることになりました。保育の現場が担う役割は、さらに広がっています。
ブランクのある人は、あなただけではありません
2024年10月時点で、保育士として登録している人は全国に約191万人います。一方、保育所などの社会福祉施設で働いている保育士は約68万人です。
資格を持ちながら、こうした施設で働いていない人が約123万人いることになります(この中には、幼稚園や認可外保育施設で働いている人も含まれます)。
資格を持っている人の多くが、保育所などの外にいるということです。国も、こうした人たちが再び保育の仕事に就けるよう、再就職を支援する取り組みを進めています。
ブランクがあることは、思っているほどマイナスに受け取られません。
復帰前に準備しておいてよかったこと
保育士証を手元に用意しておく
保育士証は、いつか使うときのためにと、ずっと手元に保管していました。これは本当によかったです。
ただ、結婚して姓が変わっていたため、そのままでは使えませんでした。保育士証の記載内容を変更する手続きが必要だったのです。
手続きの方法は自分で調べました。都道府県への申請が必要で、書類のやり取りは郵送です。新しい保育士証が手元に届くまでに、数週間かかりました。思っていたより時間がかかるので、復帰を考え始めたら早めに動いておくことをおすすめします。
※手続きのくわしい方法は、こちらにまとめました。旧姓の併記やオンライン申請のことも書いています。
年齢ごとの発達を学び直す
復帰を決めてから、子どもの年齢ごとの発達について改めて勉強し直しました。本を読んで知識を整理したのです。
幼稚園と保育園では、関わる子どもの年齢の幅が違います。だからこそ、基礎から学び直しておいたことで、現場に入ってからの不安がずいぶん軽くなりました。
そしてもうひとつ。自分の子育ての経験そのものが、大きな支えになりました。
本で読んだ知識が、自分の子育ての経験と結びついて、生きた理解になっていくのを感じました。
ブランクの期間は、保育から完全に離れていた時間ではなかったのだと思います。
ブランクは、思っていたほど問題にならなかった
一番不安だったのがブランクでしたが、実際に面接を受けてみると、ほとんど問題視されませんでした。
離れていた期間について厳しく聞かれることもなく、それよりも「いつから働けるか」「どのくらいの時間で働きたいか」といった、これからのことを中心に話が進みました。
保育の業界は慢性的な人手不足です。資格を持っていて働く意思がある人は、ブランクの有無にかかわらず歓迎される。それが面接の場での正直な実感でした。
不安に思って立ち止まっていた時間がもったいなかった、というのが今の気持ちです。
一人で探すより、園の中を知ることが大事だった
復帰にあたって一番実感したのは、園によって本当にさまざまだということです。
保育に対する考え方、いわゆる保育観は、園ごとに驚くほど違います。行事への力の入れ方、子どもへの関わり方、職員同士の雰囲気。同じ「保育園」という名前でも、中身は別物と言っていいほど差があります。
そして、その違いは求人票にはほとんど書かれていません。
給与や勤務時間といった条件は比べられます。でも「自分の保育観と合うかどうか」は、条件表からは読み取れないのです。ここが合わないまま入職してしまうと、どれだけ条件がよくても長続きしません。
私は求人サイトで求人を探しながら、知人から園の様子を教えてもらうことができました。実際の雰囲気や働き方を、中にいる人の目線で聞けたのです。これは本当に大きかったです。
ただ、正直に言えば、これは運がよかっただけです。
誰もが保育業界に知り合いを持っているわけではありません。特に、一度現場を離れて時間が経っていると、そうしたつながりは薄れていきます。
では、知り合いがいない場合はどうすればいいのか。
ひとつの方法が、園の内情を知っている人に相談することです。保育士向けの転職支援サービスには、担当者が園の雰囲気や人間関係まで把握しているところがあります。求人票には載らない情報を持っている、という点では、知人から話を聞くのと近いことができます。
無料で使えて、登録したからといって必ず転職しなければならないわけでもありません。「まずは情報だけ集めたい」という段階でも相談できます。
保育の仕事を続けてきて、今思うこと
復帰してよかったと思うのは、やはり子どもたちの成長を間近で見守れることです。
昨日できなかったことが今日できるようになる。その瞬間に立ち会えるのは、この仕事ならではの喜びです。大変なことも多いけれど、職員同士のやり取りにも面白さがあって、日々に充実感があります。
一度離れると、感覚が戻らないのではないかと不安になります。私もそうでした。
でも実際に戻ってみると、離れていた時間は決して無駄ではありませんでした。いろいろな経験をしてきたからこそ、嫌なことを受け流せるようになったのです。若い頃なら真正面から受け止めて落ち込んでいたようなことも、今は少し距離を置いて見られます。これは、外の世界を知ったからこそ身についたものだと思っています。
最後に、いま迷っている方へ。
保育の仕事は、やり直せます。
園によって保育観はさまざまです。だからこそ、自分の目で見て確かめて、自分に合う園を見つけることができれば、きっと楽しく働けます。待遇も昔に比べれば改善されてきています。
資格を持っているなら、その資格はいつでもあなたを迎えてくれます。もし少しでも気持ちが動いているなら、ぜひ一歩を踏み出してみてほしいと思います。
まとめ
最後に、この記事の内容をまとめます。
- 保育士の有効求人倍率は、2026年1月に3.88倍、7月でも2.80倍と、全職種の平均を大きく上回っています。面接でも、ブランクはほとんど問題にされませんでした
- 結婚などで姓が変わっている場合、保育士証の書き換えには時間がかかります(私の場合は数週間)。復帰を考え始めたら早めに手続きを
- 年齢ごとの発達を学び直しておくと、現場に入ってからの不安が軽くなります。子育ての経験も大きな支えになります
- 保育観は園によってさまざまです。求人票の条件だけでなく、園の中の様子を知ることが大切です
一度離れたからといって、戻る道が閉じるわけではありません。資格があったから、私はもう一度この仕事に戻ってくることができました。
保育の仕事は、やり直せます。
参考資料(いずれも2026年9月に確認)
- こども家庭庁「保育士有効求人倍率(令和8年1月・令和8年7月)」
- こども家庭庁「基礎資料(保育人材の確保のための総合的な対策)」
- こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和8年4月1日)」
- こども家庭庁「こども誰でも通園制度」

